優先席付近では、携帯電話の電源をお切り下さい。

…といわれて、切る人は先ずいない。
律義な私だって、少し前は周囲の人に断りを入れてから携帯を使っていたが、世間の反応が明らかに冷ややかな目をしていたので、今では普通に使っている。

温かくなると変な人が出てくるものだ。

以前心拍計を使っている人がいたらしく、一声かけられた人が電源を切るように協力を仰いでいた人が居た。
回りに居た人は、すぐに電源を切った。まぁ、こんなところで殺人犯になりたくないと思えば、あたりまえである。

今日、突然足を小突かれた。御老体が、吊り革が見えないのか?と言ってきた。わざとらしく、「あ。」とマヌケな声を上げて見せて携帯を閉じた。
切ってはいない。閉じただけである。
iPodの電源も空で手持ち無沙汰になってしまい、どうしたものかと、考えを巡らせると、かばんの中に小説を忍ばせてあったのを思い出した。
話の冒頭で登場人物の一人が意識不明になった。
大切な人を失うストーリー構成から、それははじまっていた。







ふと、目の前の御老体に目がいった。